ゾーンについて考えるー入るための条件・方法

こんにちは、トモヒトです。
今回は、ゾーンについて考えていきます。
「ゾーン」とは、潜在能力を十分に発揮できる理想的な心理状態のことです。
ここでは「ゾーン」について様々な書籍をもとに考えていきます。
「ゾーン」に入るための条件
まずは、「ゾーン」に入るためにはどのような心理的要因が必要なのかについてまとめていきます。
スポーツ心理学の権威であるジム・レイヤーは、『メンタル・タフネス―勝つためのスポーツ科学』の中で、理想的な心理状態になったときの共通要素として以下の12項目を挙げています。
- 肉体的なリラックス
- 落ち着き
- 不安の解消
- 意欲(精神エネルギー)
- 楽観的な態度
- 楽しさ
- 無理のない努力(いい成績を残すためには、必要最小限の練習をこなし、あとは気の向くままにプレーするのが一番いい)
- 自然なプレー(体の動きにまかせて、自然にプレーすることが何より大切)
- 注意力
- 精神集中
- 自信
- 自己コントロール
ジム・レイヤー:メンタル・タフネス―勝つためのスポーツ科学
理想的な心理状態に関係する心理的要因として、ロバート S. ワインバーグは『テニスのメンタルトレーニング』の中で以下の項目を挙げ、ジム・レイヤーの意見とかなり類似しています。
- 自信
- 集中力
- 身体的なリラックス
- 無理のない自然な努力
- 心配がない・落ち着き
- 自動的
- コントロール(自制心)
- 楽しさー動機づけ(意欲)
ロバート S. ワインバーグ:テニスのメンタルトレーニング
ジム・レイヤーの調査では、理想的な心理状態に関する選手の証言を分析した結果であり、「ゾーン」に入った結果起こったものも含まれていると考えられます。
例えば、注意力についてみれば、「注意力が高まったから、ゾーンに入った」のではなく、「ゾーンに入ったことで、注意力が高まった」と考えるほうが自然だと思います。
このように考えると、ジム・レイヤーの調査結果とロバート S. ワインバーグの意見の共通点が、ゾーンに入るための条件と考えるのが適切かと思います。
別の視点について触れてみると、志岐幸子は『一流人たちの感性が教えてくれた 「ゾーン」の法則 至福の時を手に入れる14ヵ条』の中で、「感性」「内側の知性」が「ゾーン」に深く関係していると述べています。
言葉や数字などの「目に見えるもの」に捉われるのではなく、オーラや自然や宇宙のエネルギーなど「目に見えないもの」を大切にすることが「ゾーン」に入るためには必要であると述べています。
まさに、ブルースリーの「考えるな、感じろ」という言葉がぴったりだと思います。
この「感性」や「内側の知性」は、ジム・レイヤーの挙げる「無理のない努力」や「自然なプレー」につながるものではないかと考えます。
このことに関しては、室伏広治選手は『ゾーンの入り方』の中で、次のように述べています。
仕事においてもスポーツにおいても、ロジカルな面と感覚の面は、両方とも大切です。
室伏広治:ゾーンの入り方
これらをまとめると、「ゾーン」に入るためには次の条件をそろえる必要があると考えられます。
- プレーに対する楽しさ
- 身体的なリラックス
- 自信
- 不安の解消(楽観的な態度)・落ち着き
- 集中力
- 鋭い感性
- 自己コントロール
さらに、これらの条件には関連性があると考えられます。
『メンタル・タフネス―勝つためのスポーツ科学』の内容を読み解いていくと、以下のような関連性があると考えられます。
精神集中には落ち着きが必要
好プレーを生み出すエネルギーの源は、「スポーツをする喜び」である。
積極的に実力を出しきっている時には、心の落ち着きと試合を楽しむ気持ちとがひとつになり、大きなエネルギーを生み出すのである。
プレーを楽しめなければ、リラックス、落ち着き、意欲、楽観的な態度は生まれない。
心理的な要素が整ってさえいれば集中力は自然に高まる。
これらのことから、いくつかの項目は他の項目が整うことで得られると考えられます。
以下に、私がこの本を読んで解釈した内容をまとめます。
- 楽しさ+自信+不安の解消→肉体的なリラックス
- 楽しさ→落ち着き→精神集中
- 楽しさ→楽観的な態度
- 楽しさ→意欲
本の中でも触れられていましたが、「楽しさ」は「ゾーン」に入るための重要な要素です。
競技レベルによって楽しさも異なるものの、「スポーツそのものを好きでいる」ことは大切であるといえます。
また、集中力に関しても、『テニスのメンタルトレーニング』や『ゾーンの入り方』で、無理に集中しようとするのではなく、自然と高まっていくようにすることが必要だと述べられています。
そして、「ゾーン」に入るための条件の中で、他の項目が整うことで得られるものを除くと
- プレーに対する楽しさ
- 自信
- 不安の解消(楽観的な態度)
- 鋭い感性
- 自己コントロール
の5つが残ります。
「ゾーン」に入る可能性を高めるためには
次はこれらの条件をそろえて「ゾーン」に入る可能性を高めるためにはどうすればいいのかを考えていきます。
これに関しては、W. T. ガルウェイの『新インナーゲーム』が参考になると思います。
無我の状態にあるプレーヤーは、ボールやコート、場合によっては相手への意識がより高まっている。しかし自分自身に対してこうしろ、ああしろと指示を出したり、打ち方について考察したり、どうやって同じミスを繰り返さないようにするかとか、今したことを続けようなどと、考えながらプレーしているわけではない。
無意識の状態とは、言ってみれば「精神があまりにも集中し、焦点が絞り込まれているために、静止している(Still)状態」のことだ。
W. T. ガルウェイ:新インナーゲーム
この本でいうところの「セルフ2を信頼したプレー」というのは、「感性に委ねてプレーすること」だといえると考えます。
インナー・ゲームの原則的テクニックとして、判断しない、イメージを与える、自然に発生させる、という3つがあります。
テニスでいうと、打ちたいボールの軌道をイメージし、そのボールを打つためのスイングを身体に起こしてもらうということです。
そして、セルフ1(思考)がセルフ2の活動を邪魔しないようにするための集中方法(ボールの縫い目を注視する、ラケットヘッドの場所を感じ取るなど)が示されています。
ポイントは、「今、ここ」に意識を集中させることです。
集中するとは、今、ここに、心を保つことなのだ。
W. T. ガルウェイ:新インナーゲーム
このように、「今、ここ」にあるもの(ボールの縫い目など)にセルフ1を集中させることで、セルフ2は邪魔されずにプレーすることができます。
『新インナーゲーム』を読んで感じたのは、「セルフ2を完全に信頼した状態こそが、ゾーンの状態ではないか」ということです。
実際、この本の中でも、「ゾーン」はセルフ1が完全に存在しない状態であるという内容が見られます。
「セルフ2を完全に信頼した状態」を先程の「ゾーン」に入るための5ポイントに当てはめると以下のようになります。
- プレーに対する楽しさ
→勝敗などの外側の結果への執着心が弱まる⇒勝敗を超えた「プレーすることの楽しさ」を味わえるのではないか? - 自信
→セルフ2を信頼する=セルフ1(自分)がセルフ2の能力を認める⇒セルフ2の能力を認めることが自信につながる - 不安の解消(楽観的な態度)
→良し悪しを判断するのはセルフ1⇒良し悪しの判断なしで不安(楽観)は存在しないのではないか? - 鋭い感性
→「セルフ2を信頼する=感性に委ねる」だと考えられる - 自己コントロール
→セルフ2を信頼した状態であれば、自然と自己コントロールできる(自己コントロールしている自覚はないだろうが)
私自身の推測も含まれていますが、「セルフ2を完全に信頼した状態」は「ゾーン」に入るための条件を満たしているといえます。
最後に
今回は、「ゾーン」について考察しました。
「ゾーン」というのは、様々な要素が複雑に絡み合ったものだと思います。
ここでの考察のように、明確な結論を出せるような単純なものではないと思います。
また、「ゾーン」について知ったからといって、簡単に入れるものではないことも理解しています。
しかし、「ゾーン」について論理的に考えることは、指導に重要な意味を持つと思います。
ゾーンに近づくことを通じて、心理状態をより良いものにすることができます。
それは、パフォーマンス向上にもつながるだけでなく、練習の質を高めることにもつながると思います。
最後に、今回の記事の参考資料をご紹介します。
- ジム・レイヤー:メンタル・タフネス―勝つためのスポーツ科学(1992)
- ロバート S. ワインバーグ:テニスのメンタルトレーニング(2006)
- 志岐幸子:一流人たちの感性が教えてくれた 「ゾーン」の法則 至福の時を手に入れる14ヵ条(2012)
- 室伏広治:ゾーンの入り方(2017)
- W. T. ガルウェイ:新インナーゲーム(2000)
最後までお読みいただきありがとうございました。
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